【治療・経過】(現時点での方法として)
①保存的治療(連続して10〜14日程度の厳重な臥床安静+水分摂取)
急性期には、有効な症例が多い。また小児・若年者例は、特に有効性が高く、慢性期でも行ってみるべき治療と考えます。
具体的には、食事・トイレ・入浴など必要最少の行動以外は水平臥床で過ごします。また、食事以外に1000〜2000ml/日程度の水分摂取を勧めます。入院で行う場合は点滴を行いますが、経口補水液も効果的です。
本治療により十分な症状改善があれば、治療は一応終了し、経過観察のみになります。
本治療は脳脊髄液減少症を想定しての方法ですが、髄液漏出検査を行っていなければ病状が改善しても、現時点では脳脊髄液減少症の診断確定が出来ない場合がほとんどです。
②ブラッドパッチ治療
保存的治療効果が乏しい、または無効と考えられる場合には上記の髄液漏出検査を行います。
「脳脊髄液漏出症」確定・確実の場合のみならず、疑い例であっても硬膜外生食水注入の結果を含めて脳脊髄液減少症を考慮します。診断確定または十分な疑い症例では、ブラッドパッチは有効な治療手段と考えます。
③硬膜外生食水注入
(間欠的に繰り返し注入を行ったり、硬膜外チューブを用いて一定期間持続的に注入を行う)
漏出が軽度の症例を対象と考えていますが、部分的でも症状の緩和を期待できる場合が少なくありません。
急性期例は、短期間(数週間以内)に改善、治癒する場合が多くなっています。一方、慢性期例では改善には数ヶ月〜年単位という時間がかかる場合がほとんどです(複数回のブラッドパッチ治療などを行う場合も少なくない)。しかし、上記のような方法でしっかり診断できている場合には、慢性期例を含めて80%以上の症例で改善傾向を認めています。
【小児・若年者(主に18歳未満)の脳脊髄液減少症の特徴】(文献※①)
急性期はもとより慢性期であっても起立性頭痛の訴えが明瞭な場合が多く、症状のために学校生活にも悪影響を及ぼしているようです。不登校の原因として注目すべきです。
(症状)
・起立性頭痛(成人例よりも特徴的で、慢性期でも訴えとして多い)
・その他の症状:前述(P.2〜3)とほぼ同様 “自宅で横になっていること
が多い”も1つの特徴
(その他の特徴)
・外傷を契機とする場合がある:交通外傷、スポーツ外傷、転倒・転落
など、暴力、その他(※ただし、外傷を契機としない場合も多い)
・発症日が明瞭なことが多い
・天候に左右されやすい、水分摂取が症状緩和に有効
・病状は一日中(午後の方が強い場合が多い)⇔ 起立性調節障害は午後
に緩和しやすい
・小児科などでは、起立性調節障害や心因性などと診断されがち
または、小児の脳脊髄液減少症は稀と思われがち
・頭部CT・MRI検査では、異常が表れにくい → 頭部CT・MRIで異常が
なくても否定できない
・早期の保存的治療の有効性が高い、またブラッドパッチ治療の有効性も
高い。ただし、小児期に発症し成長した成人例は改善効果の乏しい場合
が多く、小児・若年例には早期の対応が大切であると考えています。
(治療後の注意)
治療により改善があっても、その後の数ヶ月間は、重い物を持たないよう にする、体に強い衝撃が加わらないようにする、体育授業は見学にする、などの注意も必要です。
(他疾患との鑑別・関連)
①起立性調節障害・体位性頻脈症候群
朝、起きづらく起立性の頭痛や気分不良などを訴える成長期の自律神経失調病態です。午後以降に改善する場合が多いことは、脳脊髄液減少症とは異なります。ただし、脳脊髄液減少症と合併している症例もあります。疑いのある場合には、専門の小児科にて診療を受ける必要があります。
②脳振盪(のうしんとう)
頭部外傷などによって一過性に意識障害や頭痛、ふらつき、気分不良、精神症状、その他症状などを起こす神経機能障害病態です。スポーツによる脳振盪が注目され、日本脳神経外科学会などが提言を出しています。
脳振盪では、症状は一過性で、検査も異常を認めないとされるのが通常ですが、病状が長引き遷延化する場合があります。数週間以上にわたって症状が持続する場合には、「脳振盪後症候群」と診断されます。この場合、病状の可能性の1つとして脳脊髄液減少症を発症していることも想定されます。 起立性増悪傾向のある症状の有無に注意し、疑いがあれば検査・治療について考慮すべきと考えます。